2007年8月

広い世界に目を向けよう

 この春、私は縁あって広島県呉港で大型コンテナ船命名の式典に参加させてもらいました。全長約三百メートル、最大積載量約八万トンの巨大な船内には、電子海図やレーダー、自動操縦装置など最先端のハイテク機器が満載されていて、わが国の造船技術の水準の高さを物語っていました。

 この船は呉工場で建造されましたが、船籍はパナマ。テレビやオートバイ、食料品などさまざまな貨物を積んでシンガポールを経由し、ヨーロッパに向かう往復二ヵ月の定期スケジュールが組まれているそうです。

 フィリピン人の船長が「この船は『フーメンブリッジ』と命名されました。日本とヨーロッパ、つまり世界を繋ぐ架け橋という意味なのです」と流暢な英語で説明するのを聞きながら、私の心に「もはや世界は一つ」という思いがますます深まったのでした。

 同時に、日本人がもっと世界に目を向け、国際人として通用するよう、日々心掛けねばならないという責務のようなものを感じさせられたのでした。
 
 ハイテク機器を満載した船を動かすには、、それなりの高度な技術を必要とするでしょう。国際人になるためには、もちろん外国語の勉強も重要な課題となるでしょう。しかし、私たちは日常、諸外国の人々の暮らしにどれほどの関心を持ち、それを家庭教育の一環として重要視しているかと問われると、大いに疑問に思うところです。でも、そうした教育は、今からでも決して遅くはありません。例えば、食後の団らんのひととき、お子さんに向かって「パナマってどこにあるのかしら」とお聞きになってみてはいかがでしょう。そこから話題が広がるのは必定です。子どもたちのもっと知りたい、学びたい、という意識はそんなところから湧いてくるものです。

 明治生まれの私の母は、昔、ハワイで新聞記者をしていたことがありました。大正六年生まれの私が、今でも世界の動きに関心を失わないのは、たぶん国際感覚を持つ母のおかげだったのかもしれません。


(平成19年度版 幼児ポピー「ほほえみお母さん&お父さん」、小学ポピー「ポピーf」11月号より)

 伊藤桂一先生略歴
 大正6年三重県生まれ。学生時代から「文芸首都」などに投稿、詩作を続ける。昭和13年から三度にわたって7年間軍隊生活を経験された。故・中谷孝雄先生に師事され、平成7年9月より義仲寺・落柿舎の庵主、また、平成13年12月には日本芸術会員となられました。
 昭和36年「蛍の河」で直木賞受賞。昭和58年芸術選奨文部大臣賞・昭和59年「静かなノモンハン」で吉川栄治文学賞。昭和60年紫綬褒章受章。
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